何が描かれているか
重い空の下、白く砕ける波が画面を埋め尽くす。船や救助を待つ人は見えず、小さな白い鳥だけが波の上を飛ぶ。画家は晩年にも海を描き続け、この作品では海そのものの動きへ視線を絞った。手前の泡から奥の波へ目を進めると、一つの波が終わる前に次の波が立つように見える。空と海の境も霧の中で曖昧だ。
作品の見どころ
手前の薄い黄白色、中央の青灰色、奥の深い青が、波の重なりを作る。斜めに伸びる白い泡は水の流れを示し、雲も同じ方向へ動いているようだ。大波を一つだけ画面中央に置かず、多くの波を連ねることで、広い海の中に立つ感覚が生まれる。小さな鳥の位置を見つけると、画面の大きさが身体に近い尺度で分かる。
制作背景
フェオドシヤ・アイヴァゾフスキー絵画館は1898年の作品を所蔵し、晩年の代表的な大作として紹介する。同館によれば、画家は80歳の頃に約10日間でこの大画面を描いた。制作の速さだけを驚くより、長年繰り返した波の観察と記憶が、ほとんど人物を置かない構図に達したことを見る。《第九の波》と並べれば、同じ海でも物語の置き方が異なる。