「レオナルドは左の天使だけを描いた」。16世紀の歴史家ヴァザーリがそう書いて以来、長く語られてきた話である。ウフィツィ美術館はこれを、あくまでヴァザーリの記述として紹介する。今日の研究はもっと広く見ていて、館によれば彼の手が入ったのは左の天使だけでなく、川辺の風景と、絵の中心にいるキリストの体にも及ぶ。
何が描かれているか
ヨルダン川の岸辺で、イエスが洗礼者ヨハネから水を注がれている。ヨハネは細い十字架と巻物を持ち、巻物には「ECCE AGNUS DEI」(見よ、神の小羊)と記されている。これから来る救い主を人々に告げる言葉だ。
左手前に2人の天使がひざまずき、右側の1人がイエスの脱いだ衣を抱えている。
作品の見どころ
「レオナルドは左の天使だけを描いた」と長く語られてきた。16世紀のヴァザーリは、その天使があまりに見事で師ヴェロッキオが不快になった、と記す。ただしウフィツィ美術館は、これをヴァザーリの逸話として紹介している。
今日の研究は、もっと広く見ている。美術館によれば、レオナルドの手が入ったのは左の天使/金色の光が降りていく川辺の風景/そしてキリストの体である。つまり、絵の中心にいる人物までレオナルドが描いたことになる。有名な逸話の方が、むしろ控えめだった。
制作背景
20歳前後、まだアンドレア・デル・ヴェロッキオの工房にいた頃の共同制作である。作者の表示も、師と弟子の連名になっている。ウフィツィ美術館は、当時の工房では親方が絵を構想し、二次的な部分の制作を弟子や協力者に委ねるのが通例だった、と説明している。
美術館は、父なる神の両手と聖霊の鳩には、さらに年長の画家が加わった可能性も示す。左の天使やキリストを含む部分との描き方の違いから、複数の手が重なる工房制作だったことが見えてくる。