使われていない楽器と祈る家族が、長い試練の始まりを示す。
何が描かれているか
大きな木の下にヨブと家族が集まり、開いた本を前に静かに座っている。手前には羊が横たわり、遠くには建物が見える。木からは楽器が下がるが、この場面では誰もそれを奏でていない。人物の列と動物の列が上下に重なり、風景の中に落ち着いたまとまりをつくる。後に続く激しい場面の前の、静かな始まりである。
作品の見どころ
中央の本と顔を見てから、枝に掛かった楽器へ目を移してみたい。画面下の銘文や、外側の草木を刻む細い線も、中心の家族を囲んでいる。絵だけで終わらず、文字と縁飾りが紙面全体に広がる点は、ブレイクの彩飾本にも通じる。光る空と木陰の細かな彫線を比べると、単色の版画の中にも時間や明るさの違いを感じられる。
制作背景
『ヨブ記』挿絵の第1図で、掲載するメトロポリタン美術館の刷りは1825〜1826年と記録される。連作の銅版画は、画家ジョン・リネルが1823年に依頼した。旧約聖書のヨブが経験する苦難を、一連の図として読む仕事である。結末の《再び栄えるヨブと妻》で同じ家族が楽器を奏でる姿と比べると、二つの画面の違いが具体的に見えてくる。
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