何が描かれているか
港の海面が大きくうねり、奥の船は斜めに傾いている。手前の小舟には三人が乗り、岸には樽が転がる。左側の木々と塔は暗い線で埋まり、空にも細かな横線が走る。風景の中に、人と船が波に翻弄される場面が置かれている。
プリンストン大学美術館の同じ構図の解説は、難破のあとに人々が舟を岸へ戻そうとする姿と読む。どの港かを決めつけず、大きな海と小さな人の関係から眺めたい。
作品の見どころ
最初に手前の波を追い、次に船のマストへ目を移そう。丸く巻く線と斜めに交差する線が重なり、水面も船も安定しないように見える。岸の樽の輪郭にも、波の曲線に似た丸みがある。
左の木陰は線が密で、右の空は比較的明るい。色を塗り分ける代わりに、線の量の違いが風景の距離や明暗を伝えている。
制作背景
1630年のエッチングである。エッチングは、酸で金属版に線を刻み、その溝に詰めたインクを紙へ刷る版画の技法をいう。
掲載品はワシントン・ナショナル・ギャラリーの所蔵品である。表示年は原版の制作年で、この紙が実際に刷られた年を確定するものではない。紙の縁と下端の銘まで残して掲載する。