何が描かれているか
女性が大きく口を開き、長い手袋をした手を上げて歌っている。顔は少し上向きで、顎や鼻の下、腕には明るい光が当たる。飲食しながら舞台を楽しむ「カフェ・コンセール」の歌手を描いた作品である。衣装は淡い桃色、背景にはクリーム色や暖かい色の縦の帯が並び、舞台の装飾を思わせる。
作品の見どころ
下から当たる光が、顔の輪郭と喉を強く浮かび上がらせる。上向く顔と掲げた手の間を目でたどると、声を張る時の体の動きが伝わる。背景のまっすぐな縦線に対して、腕や胸元の曲線が揺れるように見える点も面白い。人物は中央から少しずれた位置にあり、正面で静かにポーズを取る肖像とは異なる舞台の瞬間を感じさせる。
制作背景
1878年頃の作品で、カンヴァスにパステルを用いている。パステルは顔料を棒状に固めた画材で、色を直接置き、線や明るい部分を重ねられる。ドガが描いた舞台には踊り子だけでなく、こうした歌手も含まれる。実在の有名歌手と結びつける説を確定せず、ここでは所蔵館の《手袋をした歌手》という記録に従って紹介する。