何が描かれているか
赤い頭巾の詩人ダンテと、青い衣の案内役ウェルギリウスが小舟に立つ。水中の亡者たちは船へしがみつき、遠くでは地獄の都市が燃える。
ダンテの文学『神曲』から、二人が地獄の川を渡る場面を描く。実際の航海ではなく、詩の中の恐怖と混乱を絵にした。舟の縁を境に、立つ二人と水へ沈む人々が上下に分かれ、同じ揺れへ巻き込まれている。
作品の見どころ
舟を斜めに横切る身体と、波の白い反射を追おう。安定した水平線より、揺れと衝突が画面を支配する。
亡者の肌には赤、緑、青の反射が置かれる。物の固有色だけでなく、隣り合う色によって濡れた身体や不気味な光を作っている。赤い頭巾を起点に青い衣、肌の反射、遠い炎へ進むと、暗い画面の色の道筋を追える。
制作背景
1822年のサロンへ出品され、若いドラクロワの出発作となった。題名は《ダンテの小舟》のほか《地獄のダンテとウェルギリウス》とも呼ばれる。
現在はルーヴル美術館所蔵。文学の内容を順番に図解するより、一場面の身体と色で読む人の想像を強くする作品である。文学を知っているかにかかわらず、舟の不安定さと身体のぶつかり合いから場面へ入れる構成である。