何が描かれているか
正面向きのキリストが、片手を祝福の形に上げ、もう一方の手で水晶球を支える構想である。金色の光背、青と赤の衣、背景は彩色されているが、顔と両手には下描きの線が残る。
完成部分では、衣のひだや縁飾りが色と光で形づくられる。未完成部分では、目、鼻、指、水晶球の輪郭が細い線で置かれ、彩色前の計画が見える。
作品の見どころ
衣は完成しているのに、顔と手は線のまま残る。完成作では隠れる制作の順序を、一枚の中で比べられ、下描きが単なる走り書きではないことも分かる。
光背と身体はほぼ左右対称に置かれるが、衣の色と手の動きが硬さを和らげる。頭の中で顔と手の彩色を補わず、残された段階そのものを見ることがこの作品の魅力である。
制作背景
メトロポリタン美術館は1505年頃、菩提樹板の油彩として所蔵し、未完成作と明記する。下描きの線は、デューラーが輪郭と陰影を準備してから色を重ねた過程を伝える。
なぜ制作が止まったかは確定していない。未完成を意図的な表現と断定せず、現在見えている完成度の違いを、工房での制作手順を知る資料として扱う必要がある。