過去の医学用語で呼ばれる肖像を、人物の尊厳にも注意して見る。
何が描かれているか
暗い上着の男性が半身で座り、少し横を見つめる。髪や頬には細かな筆づかいが残り、背景はほとんど説明されない。題名は当時の「窃盗への偏執」という分類に由来する。しかし、顔だけから行動や病気を読み取ることはできない。人物を分類の例としてのみ見るのではなく、目線や体の向き、画家が与えた近い距離に注目したい。
作品の見どころ
顔の片側に当たる光が頬と鼻の形を見せ、黒い服は背景にゆっくり溶け込む。細い筆触を残した部分と大きく塗った部分の違いが、見る位置を変える。肩は画面の外へ続き、人物が小さな枠に閉じ込められた印象は弱い。同じ時期の女性肖像と比べても、共通するのは病名ではなく、一人ずつの顔と姿勢を丁寧に見る方法である。
制作背景
ヘント美術館は1820~1824年頃の作とし、かつて精神医療に関わる人々を描いた肖像群の一枚と説明する。同館によれば、十点の連作のうち五点が現在残る。当時の医師は顔つきから精神状態を読み取ろうとしたが、その考えを現代の事実として受け入れるべきではない。所蔵館もこの絵に、単なる医学標本を超える人物への共感を見る。
出典・画像について
画像:Théodore Géricault《窃盗への執着を示す人物の肖像》/Wikimedia Commons
提供元のCC0 / Open Access 表示に基づき掲載。
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ジェリコー
中原たか穂 著 / KADOKAWA
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