何が描かれているか
壊れた建物の中に、人々の身体と家具が重なっている。上から下へ落ちるような斜めの線が走り、床や壁の安定した形は失われている。戦場の遠景ではなく、災害の内部に入り込んだような構図である。
これは版画集『戦争の惨禍』の第30図である。メトロポリタン美術館は、爆発と建物の崩壊、母子の姿を説明する。掲載する刷りには下端の題名が見えないため、題名は所蔵館の目録から示している。
作品の見どころ
《1808年5月3日》が処刑する者とされる者を向かい合わせるのに対し、この図では人や物が折り重なっている。誰が何をしたかを整理する余裕さえ失う、破壊の状態を見比べられる。
白く残した部分と、線を重ねた暗部の間を視線が移る。倒れた身体の方向を追うと、狭い室内が落ち着いて見える場所を失っていると分かる。「現場を見た」かのような迫力と、実際の目撃の証明は区別しておく。
制作背景
制作年代は、掲載画像を所蔵するメトロポリタン美術館の1810年を採った。別の刷りを持つプリンストン大学美術館は、版の制作を1808/1809〜1812年、自館の刷りを1863年と記載する。
版画集はゴヤの生前には刊行されず、最初の刊行は1863年だった。ただし、別の所蔵館の紙の刷り年を、この掲載画像にも当てはめない。原版を作った時期と、一枚の紙を刷った時期を分けて見る。