何が描かれているか
ホルバインの妻と二人の子どもを描いた肖像である。母親は画面中央に座り、幼い子を膝に載せ、もう一人の子の肩へ手を置く。三人の顔は一斉にこちらを向いていない。
背景は暗く、母親の顔と胸元、子どもの明るい服が浮かび上がる。母親の手が左の子へ伸び、右の幼児の身体が前へ重なることで、顔の向きが違っても三人はつながって見える。
作品の見どころ
目元と口元を比べると、母親と子どもでは力の入り方が違って見える。ただし、表情だけから家族の事情や本人の気持ちまで決めつけず、描かれた顔と手の動きを見たい。
王族や商人の肖像のように、宝石や仕事道具を読み解く画面ではない。身体の距離、衣の色、母親の手の置き方が主な手がかりになる。持ち物の多い《商人ゲオルク・ギーゼ》と比べると、その違いが分かりやすい。
制作背景
スイス歴史事典は1528年頃、紙にテンペラで描き、板に貼り付けた作品として紹介する。テンペラは顔料を卵などの結合材で定着させる絵具の技法を指す。紙に描いた人物を板の上へ置く支持体にも注意したい。
バーゼル市立美術館の解説によると、ホルバインは1528年にイングランドからバーゼルへ戻り、その後の滞在中に妻と二人の年長の子どもの肖像を制作した。ここでは王族への仕事とは別に、身近な家族を描いた例として紹介する。