何が描かれているか
政治家で人文主義者のトマス・モアが、緑の幕の前で半身を見せる。黒い帽子、毛皮の襟、赤褐色の袖を身につけ、金の鎖を胸に下げる。
身体は斜めを向き、顔だけが鑑賞者へ近く戻る。両手は画面下で組まれ、指輪、袖、鎖の細部が、顔の周囲に地位を示す情報を置く。
作品の見どころ
金の鎖と毛皮が地位を示す一方、鋭い目と固く組んだ手が人物の存在を支える。装飾と顔が競わず、豪華な材質が身体の姿勢へ従っている。
緑、赤、黒、金という限られた色が大きな面を作る。細かな鎖や毛皮へ近づいた後で顔へ戻ると、表情を説明する物語がなくても人物の集中が残る。
制作背景
フリック・コレクションは1527年、オーク板の油彩として所蔵する。ホルバインが1526年にイングランドへ到着した後、エラスムスの紹介で関わったモアの一族を描いた時期の作品である。
胸の金の鎖は、後に就いた大法官職そのものではなく、国王への奉仕を示す。後世のモアの運命を肖像に読み込みすぎず、1527年時点の立場と装いを見る必要がある。