何が描かれているか
壺に挿したアイリスの束が、横長の画面いっぱいに広がっている。アムステルダムにある縦長の《アイリス》と同じ月の絵で、同じ花を扱いながら、形も色の狙いもまるで違う。
ゴッホがここで狙ったのは「調和した、やわらかい」効果だった。「すみれ色」の花を「ピンクの背景」の前に置く。どちらも本人の言葉である。
作品の見どころ
1890年5月、療養所を自分から出ると決めた直前に、ゴッホは春の花束を4点描いた。アイリスが2点、ばらが2点。色の組み合わせも画面の形も、それぞれ変えてある。1年の滞在で、これだけまとまった静物画はほかにない。
この絵と、隣の展示室にある《ばら》は、どちらも画家の母が持っていた。母が亡くなる1907年まで、手元に置かれていたのである。息子が最後の療養所で描いた花が、家族のもとに残った。絵が世に出る前の、身内だけが知っていた時間がある。
制作背景
1890年5月、37歳。サン=レミの療養所を自ら出ると決めた、その直前に描かれた。
4点は、ばらつきのある寄せ集めではない。ひとつづきの組として考えられていた。縦長と横長、色の対比を変えた2組。設計されたまとまりである。