何が描かれているか
母親たちが肩を寄せ、子どもを内側にかばう。何人いるのかすぐには数えられないほど、顔や腕が重なっている。外を向く女性も、顔を隠す女性もいる。題名は《母たち》。誰かを送り出す《犠牲》と比べると、ここでは腕が子を囲い、集団の中心へ向かう。怖れをただ受けるだけでなく、守るために体を寄せる動きとして見ることができる。
作品の見どころ
木版画の黒は人々を一つの大きな円にし、白い面が顔と子どもの輪郭を浮かべる。背中をぐるりと追ってから中心を見ると、守る壁のような形が分かる。人物を整列させていないので、一人ずつの表情も残る。刷りの紙の余白は、密集した黒い形を際立たせる。近くで見ると手の重なり、離れると全体の形が先に届く。版画の単純な色数で複数の人の感情を伝えた。
制作背景
《戦争》第6図で、シュテーデル美術館は1921~22年の木版画と記録する。ケルンの美術館は、戦争の後に残された女性が子どもを守る場面と説明する。七枚の連作では、最初の犠牲から志願、喪失を経て、残る人々へ視点が移る。画家が第一次大戦で息子を失ったことは制作背景だが、画面の母親たちを特定の実在人物としては扱わない。同館所蔵の一枚を掲載した。