何が描かれているか
女性が小さな子どもを両腕で抱え、前へ差し出す。子どもの体は明るい白に包まれ、女性の背と背景は黒い。題名は《犠牲》。親が子を守る場面と見たい気持ちを、差し出す腕の向きが揺さぶる。二人の目線より、子の体を支える手と暗い外側に注目すると、何を渡してしまうのかという不安が生まれる。戦場の兵士を描かず、送り出す側に視点を置いた。
作品の見どころ
木版画の大きな黒い面は、女性の体を背景とつなぐ。子どもを囲む白は柔らかい光にも、暗さから抜け出せない空間にも見える。線を細かく増やさないため、腕と顔の向きが直接伝わる。実物は紙の上に刷られた一枚で、周りの余白も画面の静けさを支える。後の《両親》や《母たち》と比べると、まだ別れが起こる前の身振りとして読むことができる。
制作背景
《戦争》七枚の第1図で、ケルンの美術館は1922年の木版画と記録する。画家は1914年に息子ペーターを戦死で失い、長い時間をかけてこの連作に取り組んだ。同館は、戦争の初めに自ら犠牲を受け入れようとした内面もこの図に重ねる。これは特定の母子の肖像ではない。シュテーデル美術館所蔵の一枚を掲載し、1923年に刊行された連作の中で見る。