画面のいちばん手前、糸がこぼれている縫い物袋のあたりは、はっきりしていない。ぼやけている。館は、この近くのぼけがあるからこそ、その奥にある指先の精密さが際立つのだ、と書いている。手前を捨てることで、見せたいところが立ち上がる。ぼやけたところを置くことが、そのまま鮮明さを作る手だてになっているのである。
何が描かれているか
若い女が身をかがめ、手もとの仕事を見ている。黄色い胴着に白い襟。髪は結い上げ、両脇に巻いた房が垂れている。
両手で細い糸と留め針を扱っている。前には小さな木の台があり、その上にレースを編むための当てが載る。青と白と赤の布が重なって見える。
作品の見どころ
レースを編む女という主題は、家を守る徳の印として描かれてきた。館はそこに、宗教めいた道徳の色も混じっていると見ている。手前の本が祈りの本なら、なおさらである。
館の読みでは、この女は職人ではない。家の中にいる、身分の高い女である。ただし、これが画家の妻だという証拠は無い、とも館は書き添えている。誰なのかは分かっていない。
制作背景
館は、光が右から来ていることに注意を促している。フェルメールとしては珍しいことである。
18世紀の終わりに、この絵の女を壁のくぼみの中に入れた模写が作られた。もとになったのは、ストルケルという画家が描いた水彩である。館はそれを作り話だとし、この絵が切り詰められた可能性は明らかに退けられる、としている。