何が描かれているか
聖ペトロがひざまずく男性の頭へ水を注ぎ、周囲の新しい信徒たちが順番を待つ。右奥の裸の若者は腕を胸の前で組み、寒さに震えるような姿勢を取る。
岩山を背景に人物が前後へ重なり、洗礼を受ける者、衣を脱いだ者、見守る者が一連の行為をつくる。水面や器は小さいが、中心の手の動きで儀式が分かる。
作品の見どころ
宗教儀式の意味だけでなく、濡れた身体、冷気、待つ時間まで想像させる点が特徴である。特に震える若者は、聖人ではない普通の身体反応によって場面を現実へ近づける。
人物の頭の高さと岩山の斜線が奥へ続き、狭い縦長画面に深さをつくる。前景の明るい裸身と、奥の衣を着た群衆を比べると視線が自然に中心へ戻る。
制作背景
1424〜1427年頃のブランカッチ礼拝堂壁画で、使徒言行録に基づく聖ペトロ伝の一場面である。フィレンツェ市の公式資料もマザッチョによる場面として挙げる。
壁画群は礼拝堂の窓から入る光を意識して構成された。個々の画面だけでなく、隣り合う人物の大きさや光の向きを比べると、複数の物語が同じ世界に起きるよう設計されたことが分かる。