同じ1枚の絵が、四半世紀のあいだに作者を入れ替えている。1969年、メトロポリタン美術館の展覧会に並んだときの作者名はフィケレッリだった。1990年からはフェルメールの名で展示され、1995年の大回顧展では目録の一番目に置かれた。絵にはMeer 1655と読める署名がある。批評はいまも割れたままである。絵は2014年から、東京の国立西洋美術館に預けられている。
何が描かれているか
深い赤の衣を着た若い女が、床にひざまずいている。両手で海綿をしぼり、足もとの壺へ血を落としている。壺は青灰色で、金色の把手と口をもつ。
同じ手のあいだに、小さな金の十字架を胸へ押しあてている。肩から胸にかけては白い布、袖口にも白いひだが重なる。
作品の見どころ
プラクセディスは古代ローマの聖女で、殺された信者の血を集めて葬ったと伝えられる。この絵はフェルメールが考え出した図柄ではない。フィレンツェの画家フェリーチェ・フィケレッリが描いた同じ主題の絵があり、これはそれに倣ったものである。
倣った絵であることが、かえって議論の的になっている。イタリアの絵をオランダの画家がどこで見たのか。研究者のあいだでは、フェルメールがイタリアの絵に触れていた証拠だとする見方と、別人の手によるものだとする見方が並んでいる。
制作背景
記録に現れるのは1943年、ニューヨークのエルナとヤコブ・レーダー夫妻の所有としてである。1969年にメトロポリタン美術館で開かれたイタリア・バロックの展覧会には、フィケレッリの作として出品された。
1987年にバルバラ・ピアセツカ・ジョンソンの手に渡り、1990年のワルシャワ、1991年のクラクフでは、フェルメールの名で展示される。1995年にワシントンとデン・ハーグで開かれたフェルメール展では、目録の一番目に置かれた。