何が描かれているか
青い空間に女性の横顔が浮かび、左には光を帯びた楕円形がある。題名のシーターはインドの叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する人物だ。しかし、画面のどの瞬間を描いたかを物語の一場面へ固定するのは難しい。横顔は遠くを見るようで、周囲の青や緑がその姿を包む。説明の多い物語画ではなく、人物の記憶や気配を色で呼び起こすような作品だ。
作品の見どころ
横顔の輪郭を追うと、肌の柔らかな色と背後の鮮やかな青がぶつかる。左の楕円形を月と見ることもできるが、形だけから決めつける必要はない。下には草花のような色の粒が重なり、画面を一つの現実の場所から遠ざける。パステルの粉っぽい明るさと、下地に残る木炭の暗さが同居する。初期の黒い作品から色彩へ移る過程を見られる一枚だ。
制作背景
シカゴ美術館は1893年頃のパステルとし、木炭などを下地に用いたと記録する。同館の研究では、かつて別の題で呼ばれたことや、画家自身の記録に基づく題名の検討が紹介されている。ここでは館の現在の題名《シーター》を用いる。インドの物語への関心は確かめられるが、人物が何を思っているかを事実として書くことは避けたい。