何が描かれているか
暗い部屋で、イワン雷帝が倒れた息子を抱きしめる。息子の頭には傷があり、父の目は大きく開いたままだ。題名には1581年11月16日の日付が入るが、当時の出来事を証明する絵ではない。息子の死をめぐる伝承をもとに、レーピンが19世紀に作った歴史画である。
作品の見どころ
二人の顔と手に光が集まり、足元の赤い敷物や衣が暗さの中に広がる。父は息子を押さえながらも、起きたことを取り消せないように見える。床の物や広い室内を追うより、重なる体と視線に目が止まる構図だ。血の描写だけを見て終えず、抱く手の強さと息子の力の抜けた姿を比べたい。
制作背景
トレチャコフ美術館は1885年の油彩画として所蔵する。同館の解説では、1881年の皇帝暗殺とその後の処刑が、レーピンの暴力への思いに影響したとされる。一方、雷帝が息子を殺したかどうかは歴史研究で議論がある。ここでは画家の想像した場面として扱う。作品は後年に損傷と修復を経験しており、現在の姿にも保存の歴史が重なっている。 美術館は、リムスキー=コルサコフの曲《アンタール》を聴いた体験も制作の初期の刺激として挙げている。