ライオンに囲まれたダニエルが、両手を合わせて上を見つめる。周囲には伏せる獣、口を開ける獣、こちらを向く獣がいる。聖書の奇跡を扱いながら、それぞれのライオンを生きた動物として描き分けた絵だ。
何が描かれているか
岩の囲いの中で、ダニエルだけが明るい肌を見せて座っている。赤い布がそばに広がり、身体の周囲をライオンが埋める。視線や姿勢がばらばらなので、同じ動物の繰り返しには見えない。
旧約聖書の物語では、自分の神へ祈ったダニエルがライオンの穴へ投げ込まれる。しかし神に守られ、生き延びる。ここにあるのは猛獣を力で倒す英雄ではなく、祈りを続ける人物の姿だ。
作品の見どころ
ダニエルの顔から上方へ向かう視線と、手前で横に広がる獣たちを見比べてみよう。一人の垂直な動きと、集団の重たい広がりが対照になっている。
手前のライオンは鑑賞者のすぐそばまで迫るように見える。一方で、すべてが飛びかかっているわけではない。静かな姿と牙の見える口が同居し、安全とも危険とも言い切れない緊張を生んでいる。
制作背景
1614〜1616年頃、ルーベンスが30代後半の時期に制作した。現在はワシントン・ナショナル・ギャラリーの所蔵で、ロンドンの同名美術館とは別の施設である。
ルーベンスはブリュッセルで飼育されたライオンを観察し、人体については古代彫刻も研究していた。動物の観察と過去の美術の学習が、聖書の物語を目の前の光景にするために使われている。