デリラの膝で眠るサムソンの髪に、男がはさみを入れる。力自慢の英雄が、抵抗する間もなく力を失う場面だ。明るい肌と赤い布の向こうに、捕らえるための兵士が待つ。大きな戦いではなく、その直前の静けさを描いている。
何が描かれているか
筋肉質のサムソンが、赤い衣を着たデリラの膝へ上半身を預ける。傍らの男は髪を切り、老女がろうそくを近づける。右奥には武器を持った兵士たちが見える。
題材は旧約聖書の物語。サムソンの力には、切らずにいた髪が関わっている。デリラはその秘密を知り、眠っている彼の髪が切られる。はさみを扱うのはデリラ自身ではなく、横から手を伸ばす男だ。
作品の見どころ
まず、背中を照らす光から、髪に触れる手へ目を移してみよう。強そうな身体と、小さなはさみの取り合わせが、力の逆転を見せる。動きが少ないため、手元の作業がかえって目につく。
赤い布、白い肌、暗い出入口という色の差も読みやすい。手前の暖かな光だけを見ていると親密な室内に思えるが、右奥の兵士に気づくと同じ光景が危険なものに変わる。
制作背景
1609〜1611年頃の作品で、ルーベンスがイタリアからアントウェルペンへ戻った直後の時期に当たる。所蔵館の目録に基づく年代で、厳密な完成年を一つに決めることはできない。
アントウェルペンの有力者ニコラース・ロコックスの邸宅にあった絵。注文を受けて描かれたのか、完成後に購入されたのかは分かっていない。大勢に向けた祭壇画とは異なり、室内で聖書の物語と絵の工夫を味わう作品だった。