赤い本を抱える聖アンデレの静かな表情を、金地と細い線で描いた。
何が描かれているか
聖アンデレが赤い本を両手で持ち、金色の背景の前で体を少し斜めに向ける。視線は本にも見る人にもまっすぐ向かわない。静かな姿勢の中に、何かを考えているような表情がある。
周囲の細い装飾枠は、この板絵にもとから付く部分である。展示のため後から足された額ではない。枠まで含めて、近くで読むための小さな像として作られた。
作品の見どころ
髪とひげの細かな線を追うと、金地の平らな面から顔が浮き出す。肩にかかる淡い衣は大きな曲線を描き、手元の赤い本へ視線を導く。装飾を重ねても、人物の輪郭は埋もれない。
本は聖人を見分ける手がかりの一つだが、画面だけで本の中身までは分からない。顔の向き、指の形、衣の重なりを順に見ると、一人の人物を近くで見つめる構成が分かる。
制作背景
メトロポリタン美術館は1326年頃のシモーネ・マルティーニの作とし、もとは五枚からなる持ち運び可能な祭壇画の一枚だったと説明する。市の統治機関が注文した可能性もあるが、確定していない。
別の場所に伝わった板絵と合わせると、今は一枚ずつ離れている作品が、かつては隣り合っていたことを想像できる。《マエスタ》の大壁画とは違い、手を伸ばせる距離で聖人の表情を読むための画面である。
作品情報
位置づけ
五枚からなる持ち運び可能な祭壇画の一部。元の額縁を残す。
出典・画像について
画像:Simone Martini《聖アンデレ》/The Metropolitan Museum of Art, Open Access
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