何が描かれているか
画面の左寄りに、幼子を抱いたマリアと、旅をするヨセフが見える。人物の周囲には大きな木々が茂り、右側には水辺と遠くの建物が広がっている。手前の暗い草木と、奥の明るい空が対照的だ。
聖家族は画面のすべてを占めるほど大きくは描かれず、広い風景の中を進んでいる。枝が人物の上を覆い、川や道はその先へ続く。まず人物を見つけてから周囲へ目を広げると、旅の場面として読める。
作品の見どころ
マリアの赤い衣服は、深い緑や茶色の中でよく目につく。顔と幼子の明るさを確認したあと、左の人物や足元へ目を戻してみたい。小さな一行が、暗い木立の中から浮かび上がって見える。
右上の明るい空と、手前の葉の細かな形も比べたい。風景の明暗が見る方向を作り、近い場所の濃い影を越えて、奥の水辺へ少しずつ目が進むような構成だ。
制作背景
題名は、幼いキリストを連れてエジプトへ逃れる聖家族の物語を示す。施設の公式記録は1582〜1587年の制作とし、マリアの生涯とキリストの幼年時代を描く一階の壁画群に位置づける。
同じ連作の『受胎告知』では天使が室内を横切るが、この絵では旅人が自然の中にいる。比べると、場面に合わせて人物と周囲の空間の配分が変わることが分かる。