何が描かれているか
白い牡牛に姿を変えたユピテルが、エウロペを海へ連れ去る。エウロペは牡牛の角につかまり、もう一方の手で赤い布を振る。遠い岸では仲間たちが小さく応える。
画面下には魚とイルカに乗るクピドが現れ、空にも二人のクピドが飛ぶ。神話の愛のしるしがある一方、エウロペの身体は大きく傾き、助けを求める緊張が消えない。
作品の見どころ
赤い布、白い身体、牡牛、荒れる水が大きな斜線を作る。水平線があっても画面は安定せず、エウロペが岸から引き離される動きを感じさせる。
柔らかな輪郭とこすれた色が、水しぶきや雲の形を一つに溶かす。細部を硬く閉じない晩年の描き方が、制御できない出来事と結びつく。
制作背景
1559年から1562年に制作された「ポエジー」終盤の一作で、現在はボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館にある。題材はオウィディウス『変身物語』に基づく。
古い題名の「rape」は、ここでは連れ去り・略奪を指す歴史的用法を含む。画面を恋愛の冒険だけに美化せず、本人の同意なく運ばれる恐怖も見落とさない。