何が描かれているか
緑の頭巾と毛皮の襟を身につけた男性が、暗い背景の前でこちらを見る。手前の石の欄干には、刻んだように見える文字と書いた文字が重なる。
顔は正面ではなく少し横を向くが、目は鑑賞者を捉える。短い髭、目元、唇の左右差が、理想化されない個人の表情を作る。欄干が人物と鑑賞者の間の境界になり、顔だけがその向こうから近く現れるように見える。
作品の見どころ
石の文字は同じ方法で書かれていない。彫刻、線刻、筆記を描き分け、平らな板の上に異なる材質と時間を感じさせる。
『Léal Souvenir』は古フランス語で誠実な記憶という意味に近い。肖像と文字を一緒に置き、顔を見ることを記憶や追悼へつなげる。顔、石、三種類の文字へ順に目を移すと、肖像が個人の記録として組み立てられたことが分かる。
制作背景
1432年10月10日の日付がある。ナショナル・ギャラリーがNG290として所蔵するが、男性の名前と職業は分かっていない。
ギリシア文字風の『Tymotheos』から音楽家などの説が出た。しかし確定した実名として使わず、通称の由来として示す。文字が多くても身元は確定しないため、読める情報と、そこから生まれた仮説を分けて扱う必要がある。