下絵を見るのに、2日にわたって行列ができた。老若男女が祭りのように押しかけたと、ヴァザーリが書き残している。それほど待たれた絵が、完成しないまま終わっている。埋まらなかったのはマリアの顔で、影から光へ移る、いちばん繊細なところだった。51歳で描き始め、死ぬまで手元に置いて、なお埋まらなかった。祖母と母と子の、三世代が1枚に収まっている。
何が描かれているか
三世代が1枚に描かれている。いちばん下に座るのが祖母の聖アンナ。その膝に娘の聖母マリアが座り、身を乗り出している。マリアが抱きとめようとしているのが、孫にあたる幼子イエスだ。
イエスは子羊にまたがって遊んでいる。子羊は生贄にされる動物で、この子自身の最期を指している。
作品の見どころ
この絵の下絵を、同時代の人が実際に見て、手紙に書き残している。1501年4月3日、フィレンツェにいた修道士が、マントヴァの侯妃イザベラ・デステに宛てた報告だ。「レオナルドの暮らしは移り気で、その日その日を生きているように見える」と前置きしたうえで、下絵の中身を細かく描写している。
その説明が、いま見える絵と少し違う。手紙の中の聖アンナは、静かに見守ってはいない。娘が子から子羊を引き離そうとするのを、押しとどめようとしている。教会は、キリストの受難が妨げられることを望みえない。だからアンナは止めるのだ、と修道士は読んだ。ただしこれは下絵についての記述で、完成した絵とは構図が変わっている。
制作背景
51歳の1503年頃にフィレンツェで描き始め、1519年に死ぬまで手放さなかった。
ヴァザーリが書き残した話がある。修道士たちは、この絵を描かせるためにレオナルドを住み込ませ、彼と身内の生活費まで持った。ところが彼は長いこと引き延ばし、何も始めなかった。その間に作った下絵には、2日のあいだ、老若男女が祭りのように列をなして見に来たという。