天使の右手は、制作の途中で姿を変えている。赤外線調査によると、この絵の下の層では手が上がっておらず、ロンドンにある別の《岩窟の聖母》と同じ姿だった。レオナルドは制作の終盤に、手を上げてヨハネを指す姿へ描き変えた。ルーヴル美術館はこの発見から、教義に問題があったため別の絵へ差し替えられた、という従来の説を退けている。
何が描かれているか
暗い洞窟の中に4人がいる。中央でひざまずくのが聖母マリア。その右で幼子イエスが手を上げて祝福し、左では幼い洗礼者ヨハネがそれを拝んでいる。イエスを後ろから支えているのが天使だ。
場面は聖書に無い。エジプトへ逃れていた聖家族が帰る途中、幼いヨハネと初めて出会ったという、外典の話に基づいている。
作品の見どころ
洞窟そのものが意味を持っている。ルーヴル美術館の説明では、岩がマリアを悪から象徴的に守っている。無原罪の御宿り(マリアが原罪を免れて生まれたという教え)を、岩の壁で表しているということだ。
構図も計算されている。4人はピラミッドの形に収まり、その中心にマリアが置かれる。縦に読めば幼子から天の父へ、横に読めば天使とマリアがそれぞれ子どもを支えて出会わせる、という筋になる。
制作背景
1483年4月25日、31歳のレオナルドは、ミラノのサン・フランチェスコ・グランデ教会にあった信徒会と契約した。期限は同年12月8日、報酬は800リラだった。教会はのちに取り壊され、現存しない。
報酬をめぐる争いは長く続き、1506年に追加報酬の条件がまとまり、1508年に仕事の完了が記録された。教会へ納められたのは現在ロンドンにある版で、ルーヴル版がそれ以前にたどった経緯には不明点が残る。