抱き合う二人のすぐ横で、ギターを持つ人物が座っている。近い場所にいても、同じ出来事を共有しているようには見えない。夕方の庭を舞台に、人の距離を小さな身ぶりから読む絵だ。
何が描かれているか
左の男女は身体を曲げて抱き合い、そのすぐ右にはギターを持つ人物が座っている。手前の犬も二人へ顔を向ける。三人と一匹は近くに集まるが、注意は同じ方向にそろっていない。
赤い舞台衣装の人物は、イタリア喜劇の役柄メズタン。ゲティ美術館は、ギターを調える彼を情熱的な二人と対照的に解釈する。楽器に触れる手と、横へ向く顔を確かめてみたい。
作品の見どころ
男女の腕とスカートがつくる曲線に対し、ギターは斜めの線で右へ伸びる。左の動きと右の座る姿を交互に追うと、近いのに隔たりのある関係に見える。
人物の上には夕方の空が広がり、遠い風景は淡い光の中へ消えていく。暗い木々と赤い衣服を比べてから、手前の犬へ戻ってみよう。周囲の空間から、人物同士の距離が伝わる。
制作背景
1718〜1719年頃、板に油彩で描かれた。1724年以前には、収集家エナンのもとで《完全な調和》と対で扱われた。ただしゲティの研究は、作者が初めから対として構想したとは断定できないとする。
長く公の場から姿を消したのちに再び知られ、2017年にゲティ美術館が取得した。抱擁を描くこの絵と、笛や楽譜を囲む《完全な調和》を見比べると、音楽と人のつながりを異なる形で味わえる。