作品と画家から入る
もっと知りたいキュビスム
ピカソ、ブラック、グリスらの作品からキュビスムを知る入門書。絵画だけでなく、彫刻や各国への広がりも扱います。
出版社の紹介を見る ↗作品を比べて深く読む · 20世紀初め
面・目印・貼り紙・色から読む
物がばらばらに見えても、なぜ「瓶」や「卓」を読み取れるのでしょう?
まずセザンヌの風景と静物で空間のつながりを確かめ、人物の輪郭を分ける実験へ進みます。そのあと新聞、木目、トランプを手がかりに、描かれた物と画面の素材の関係を読みます。
1885〜1893年頃のセザンヌの二作品を入口に、1910〜1915年の作品を比較します。掲載図版はセザンヌ、グリス、ドローネーの6点。ピカソとブラック、グリスの貼り紙作品は本文で読みどころを説明し、各節の出典から所蔵館の作品ページへ進めます。20世紀美術全体や、キュビスムの全作家を網羅する章ではありません。
家や卓は見えるのに、空間が少し揺らいで見えるのはなぜでしょう?


セザンヌの《ガルダンヌ》は1885〜1886年の作品です。教会の塔を頂点に、赤い屋根の建物が斜面に集まっています。メトロポリタン美術館は、その幾何学的な構造を後のキュビスムに先立つものとして説明しています。
《リンゴの籠》は1893年頃の静物画です。シカゴ美術館の解説は、ずれた卓、傾く瓶、こぼれるリンゴ、積まれた菓子が生む不安定さに注目しています。
二枚を比べると、屋根の平らな面と、果物の丸さをつくる筆触の違いが見えます。読み方の一つは、物が何かを見分けたあとで、隣の形とどの向きでつながるかを確かめることです。後の作品を考える手がかりにはなりますが、この二枚をそのままキュビスム作品と呼ぶわけではありません。
絵を見る手がかり《ガルダンヌ》の塔と屋根、《リンゴの籠》の布の左右に現れる卓の縁を、ゆっくりたどります。
The Metropolitan Museum of Art / Gardanne ↗
確認箇所:作品解説、Date 1885–86、57.181
The Art Institute of Chicago / The Basket of Apples ↗
確認箇所:公式API /api/v1/artworks/111436:date_display、description、medium_display
人物を一つの輪郭で囲まなければ、何を手がかりに読めるでしょう?

絵を見る手がかり比較用のグリスの肖像で、頬や上着の面の向きをたどってみます。次にピカソとブラックの作品を開き、顔や楽器の輪郭が、周囲の面とどこでつながるか比べてください。上の肖像はグリスが描いた作品です。
キュビスムは、20世紀初めのパリでピカソとブラックの協働から生まれた絵画の様式です。物を幾何学的な面に分け、浅い空間の中で組み直し、異なる視点も使いました。
ピカソの《マンドリンを持つ少女》は1910年晩春の油彩画です。MoMAの解説では、顔を含む身体が灰色、クリーム色、黄土色の平らな面に変えられています。顔の長方形や分割された目は、自然な陰影で顔を丸く見せる方法から離れています。
ここでの読み方は、ばらばらに見える形を急いで元の人体に戻そうとせず、面の向き、隣の色、その間を通る線を見ることです。複数の視点は手がかりですが、どの面にも別々の撮影位置を割り当てる答え合わせにはしません。
The Metropolitan Museum of Art / Cubism ↗
確認箇所:本文:1907〜1914年の協働、面・視点、分析的/総合的キュビスム、他の画家への広がり
The Museum of Modern Art / Man with a Guitar ↗
確認箇所:2011年展示ラベル、MoMA Highlights 2019抜粋、Date、175.1945
The Museum of Modern Art / Girl with a Mandolin (Fanny Tellier) ↗
確認箇所:作品解説 MoMA Learning 2026、Date、Medium、966.1979
The Art Institute of Chicago / Portrait of Pablo Picasso ↗
確認箇所:公式API /api/v1/artworks/8624:description、date_display、medium_display;画像の公開可否は別判定
物がほとんど見えなくなる絵にも、現実への糸口は残っているのでしょうか?

絵を見る手がかり比較用の《瓶と鉢》で、輪郭や影から瓶を見分けてみてください。次にブラックの作品を開き、横顔・肘・ギターの穴・釘とひものうち、どこが見つかるか確かめます。上の作品はグリスの鉛筆素描です。
ブラックの《ギターを持つ男》は、1911年夏から1912年初めにかけての作品です。MoMAは、人物の横顔、曲がった肘、ギターの音孔、写実的な釘とひもを、現実とつながる目印として挙げています。人物が読みにくくても、対象のない絵とは説明していません。
「分析的キュビスム」は、対象を細かな面に分けて組み直す段階を説明する名前です。ピカソとブラックのこの時期の絵では、茶、灰、黒に近い色と、重なり合う小さな面が目立ちます。
釘だけが読みやすく、人物は読みにくいという違いに注意してみます。読み方の一つは、描かれた物の分かりやすさが、画面のどこでも同じではないと考えることです。一枚の中で写実的な目印と分解された形を往復すると、「全部が抽象化された」という一言では見落とす差を捉えられます。
グリスの《瓶と鉢》は、1911年の鉛筆素描です。
The Museum of Modern Art / Man with a Guitar ↗
確認箇所:2011年展示ラベル、MoMA Highlights 2019抜粋、Date、175.1945
The Metropolitan Museum of Art / Cubism ↗
確認箇所:本文:1907〜1914年の協働、面・視点、分析的/総合的キュビスム、他の画家への広がり
National Gallery of Art / Bottles and Bowl ↗
確認箇所:Date 1911、Medium graphite on laid paper、1995.47.45。自動生成されたVisual Descriptionを歴史的事実の根拠にしない
同じキュビスムでも、形のまとめ方は一人ずつ違うのでしょうか?

フアン・グリスの《瓶と鉢》は1911年の素描です。紙に黒鉛で描かれており、油彩画ではありません。
この素描では、細長い瓶と手前の鉢の形を輪郭線から追えます。瓶の胴には薄い斜線があり、物が線だけの図記号になるわけではありません。読み方の一つは、瓶の丸みを表す線と、瓶同士の位置を決める線を分けて見ることです。
別の作品《パブロ・ピカソの肖像》は1912年1〜2月の油彩画です。シカゴ美術館は、顔、首、胴の面を規則的な斜線の構成に置いた点を説明しています。右下にはピカソへの献辞があり、1912年春のアンデパンダン展に出品されました。
この二作品を読むときは、「グリスは幾何学的」という言葉で終えず、どの線が物を見分けさせ、どの線が画面をまとめるかを問い直してみます。
絵を見る手がかり瓶の口、胴、底をたどり、隣の瓶や鉢との重なりを見ます。薄い線が途切れる所にも注意します。
National Gallery of Art / Bottles and Bowl ↗
確認箇所:Date 1911、Medium graphite on laid paper、1995.47.45。自動生成されたVisual Descriptionを歴史的事実の根拠にしない
The Art Institute of Chicago / Portrait of Pablo Picasso ↗
確認箇所:公式API /api/v1/artworks/8624:description、date_display、medium_display;画像の公開可否は別判定
新聞の絵を描くことと、新聞そのものを貼ることは、どう違うでしょう?

パピエ・コレは、紙片を貼り込む方法です。1912年にブラックとピカソが取り入れたこの方法では、印刷された紙や色紙が、描いた物と同じ画面に置かれます。
グリスの《瓶》は1914年春〜夏の作品で、新聞、二種の壁紙、切り紙に、コンテ、蝋クレヨン、グアッシュ、水彩を組み合わせています。美術館の解説では、木目を合わせた紙片や、紙と紙の間の空きで読めるパイプが指摘されています。
《ラム酒の瓶と新聞》は1914年6月の作品です。グッゲンハイム美術館の記録は、新聞を支持体にした紙のコラージュに、グアッシュ、コンテ、黒鉛を使った作品としています。
読み方の一つは、紙に印刷された模様、画家が描き足した線、紙の縁を別々に追うことです。物を表す形と、実際の素材の形が重なるため、何が描かれ、何が貼られたかは見た目だけで決めず、素材の記録とも照合します。
絵を見る手がかり図版の《ラム酒の瓶と新聞》で紙の縁と印刷された文字を探し、出典の素材欄と照合します。《瓶》は所蔵館の作品情報で比較できます。
The Metropolitan Museum of Art / The Bottle ↗
確認箇所:作品解説、spring–summer 1914、Mediumの新聞・壁紙・切り紙の列挙。転載不可の画像は取得しない
The Metropolitan Museum of Art / Cubism ↗
確認箇所:本文:1907〜1914年の協働、面・視点、分析的/総合的キュビスム、他の画家への広がり
Solomon R. Guggenheim Museum / Bottle of Rum and Newspaper ↗
確認箇所:作品解説、June 1914、Medium paper collage / gouache / conté crayon / graphite
Peggy Guggenheim Collection / Bottle of Rum and Newspaper ↗
確認箇所:作品名 / 作者 / 制作年 / 所蔵・コレクション
Wikimedia Commons / Bottle of Rum and Newspaper — file description ↗
確認箇所:Summary / Licensing / File history
貼り紙に似て見える画面は、すべてコラージュでしょうか?

グリスの《ファントマ》は1915年の作品で、所蔵館の素材表記は「キャンバスに油彩」です。新聞名LE JOURNALや、FANTOMASの文字がある紙面、木目、白い輪郭の器が描かれています。
文字の下を通る木目と、白い面の境目をたどると、文字の色まで変わる所が見えます。白い線の器は、下の木目や色の面を消さずに重なっています。読み方の一つは、一つの卓を描いた場面として読むことと、色や線の重なりとして見ることを往復することです。
前の節の《瓶》とは、画面に入った素材が違います。紙片らしく見える四角だけを根拠に、実際に新聞を貼ったと説明することはできません。
絵を見る手がかりLE JOURNALの文字を左右に追い、木目と白い紙に見える形の境目で文字の色が変わる所を見ます。
National Gallery of Art / Fantômas ↗
確認箇所:Visual Description、Date 1915、Medium oil on canvas、銘、1976.59.1
The Metropolitan Museum of Art / The Bottle ↗
確認箇所:作品解説、spring–summer 1914、Mediumの新聞・壁紙・切り紙の列挙。転載不可の画像は取得しない
物のすべてを描かなくても、トランプや卓を読めるのはなぜでしょう?

「総合的キュビスム」は、紙片や大きな面に、少ない線や印を組み合わせて物を示す方法を説明する名前です。細かな面へ分ける分析的な方法と対照になります。
グリスの《クラブのエースとダイヤの4》は1915年の板に油彩の作品です。所蔵館の解説は、クラブのエースの一部で、白地の黒い印が黒地の緑の印へ変わる点に注目しています。
木目の卓、トランプ、青い面は、部分的に重なって見えます。読み方の一つは、四角を全部同じ物と考えず、数字や模様のある面と、広がりをつくる色の面を区別することです。小さな印があれば、大きな面を細部まで埋めなくても物を読み取れます。
二つの呼び名は、作品を見るための整理として使います。《ファントマ》やこの絵のように、貼り紙を使わない油彩でも大きな面や文字を組み合わせられるため、「総合的=紙を貼った作品」と一対一には対応させません。
絵を見る手がかりダイヤの4とクラブのエース、卓の木目、青と緑の三角形の位置関係を見ます。
The Metropolitan Museum of Art / Cubism ↗
確認箇所:本文:1907〜1914年の協働、面・視点、分析的/総合的キュビスム、他の画家への広がり
Solomon R. Guggenheim Museum / Bottle of Rum and Newspaper ↗
確認箇所:作品解説、June 1914、Medium paper collage / gouache / conté crayon / graphite
National Gallery of Art / Ace of Clubs and Four of Diamonds ↗
確認箇所:Visual Description、Date 1915、Medium oil on board、2014.17.12
National Gallery of Art / Fantômas ↗
確認箇所:Visual Description、Date 1915、Medium oil on canvas、銘、1976.59.1
立体感を減らした画面にも、本物らしく見える部分は残るでしょうか?
トロンプ・ルイユは、目をだますほど本物らしく描く「だまし絵」を指す言葉です。メトロポリタン美術館の展覧会は、キュビスムと過去のだまし絵を、平らな画面、素材の模倣、印刷物や広告の取り込みから比較しました。
読み方の一つは、キュビスムが写実をすべて捨てたと考えず、本物らしさを部分ごとに変えていると見ることです。ブラックの釘は人物より読みやすく、グリスの木目は卓を連想させます。そこへ紙の平らな縁が入ると、絵の中の奥行きと、目の前にある画面の表面を同時に意識できます。
絵を見る手がかりブラックの釘、グリスの木目、貼り紙の縁を思い出し、何が本物らしさをつくるか比べます。
The Metropolitan Museum of Art / Cubism and the Trompe l’Oeil Tradition ↗
確認箇所:Overview:素材模倣・文字・現実と描かれた世界・過去のだまし絵との関係
The Museum of Modern Art / Man with a Guitar ↗
確認箇所:2011年展示ラベル、MoMA Highlights 2019抜粋、Date、175.1945
National Gallery of Art / Fantômas ↗
確認箇所:Visual Description、Date 1915、Medium oil on canvas、銘、1976.59.1
The Metropolitan Museum of Art / The Bottle ↗
確認箇所:作品解説、spring–summer 1914、Mediumの新聞・壁紙・切り紙の列挙。転載不可の画像は取得しない
ピカソとブラックの描き方だけで、キュビスム全体を説明できるでしょうか?

レジェは1910年のサロン・ドートンヌに自身のキュビスム作品を出品し、1911年にはアンデパンダン展でグレーズやメッツァンジェらと展示しました。メトロポリタン美術館は、この展覧会を舞台にした画家たちが、ピカソとブラックに比べ、より色彩的で読みやすい展開をつくったと説明しています。
グリスの《パブロ・ピカソの肖像》も、翌1912年のアンデパンダン展に出品されました。画面右下の献辞は、肖像の相手だけでなく、ピカソとの関係を観客へ示す文字でもありました。
ここでは、制作室で形を試すことと、展覧会で観客に作品を見せることを分けて考えてみます。同じ様式名の下でも、画面の読みやすさ、色、発表する場は一通りにはまとまりません。
絵を見る手がかりグリスの肖像では、頭・首・胴体の面と、それらをつなぐ斜線を追います。右下のパレットと献辞も確認し、ピカソ・ブラックの作品情報へ進んで比較します。
The Metropolitan Museum of Art / Fernand Léger (1881–1955) ↗
確認箇所:本文:1910年サロン、1911年アンデパンダン展とSalon Cubists、より色彩的で読みやすい別の展開
The Art Institute of Chicago / Portrait of Pablo Picasso ↗
確認箇所:公式API /api/v1/artworks/8624:description、date_display、medium_display;画像の公開可否は別判定
形を分ける実験は、色や社会の出来事をどう取り込んだでしょう?

ロベール・ドローネーの《政治的ドラマ》は1914年の作品です。支持体は厚紙で、油彩とコラージュを使っています。所蔵館は、女性の上着などに貼り紙が使われていることを説明しています。
NGAの解説は、1914年にアンリエット・カイヨーが新聞編集者ガストン・カルメットを銃撃した事件を、この作品の背景として挙げています。二人の人物と円形の色は、実際の部屋を自然な遠近法で再現する方法から離れています。
読み方の一つは、円の同心性と人物の傾きを別々に見ることです。色の区切りが目を中心へ引き寄せる一方、人物の輪郭は中心から外へ伸びます。静物の卓で見た形と素材の実験が、ここでは色の動きと出来事を読む問題につながります。これはキュビスム周辺の展開の比較であり、20世紀の絵画がすべてこの描き方へ進んだという説明ではありません。
絵を見る手がかり円の中心、二人の人物、右の女性の上着を見ます。円の色の区切りと人物の輪郭の関係も確かめます。
National Gallery of Art / Political Drama ↗
確認箇所:作品解説、Visual Description、1914、Medium oil and collage on cardboard、注2の貼り紙、1971.2.1
The Metropolitan Museum of Art / Cubism ↗
確認箇所:本文:1907〜1914年の協働、面・視点、分析的/総合的キュビスム、他の画家への広がり
《ファントマ》の新聞名から一本の文字を選び、その下を通る面の境目を追ってみてください。次に《クラブのエースとダイヤの4》で、物を見分けさせる小さな印を探します。見えた形の説明と、所蔵館が記す素材を別々に確かめると、似て見える作品のつくり方の違いを読めます。
セザンヌの風景と静物、グリスの素描・油彩・コラージュ・肖像、ドローネーの作品を比べる8図版です。掲載は公開利用条件を確認できた全景複製に限っています。グリスの図版は、ピカソとブラックの公式作品ページを読む際の比較にも使います。作者や技法の違いを明記し、別の画家の作品へ読み替えません。図版数を様式の重要度や作家の序列とは結びつけません。
作品と画家から入る
ピカソ、ブラック、グリスらの作品からキュビスムを知る入門書。絵画だけでなく、彫刻や各国への広がりも扱います。
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作品と批評の両方から、キュビスムと「現実」の関係を論じる研究書。分析的・総合的キュビスムを扱い、文学や建築へも視野を広げます。
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